中学では表現力を重んじる創発学の一環として、文化祭での演劇発表を行っています。生徒諸君が内容を一から考え演じるというものですが、せっかくなのでプロの力をちょっとお借りして演劇の面白さを実感でき、生徒諸君の演劇作りの刺激になるような取り組みができないかと考え、「演劇ワークショップ」を企画、7月11日(火)に実施しました。Studio_o3の高階經啓さんに相談し、演出家・脚本家の司田由幸さんにお声がけ下さり、さらに200人を超える生徒を相手ではもう少し人数が必要ということで、俳優の井上貴子さん、渡辺麻依さんにもワークショップのナビゲーターを務めていただきました。
まずは体育館で中学生全員を前に高階さんに話をしていただきます。自動ドアが開いて中に入るという動作をした後に、「演劇というのは、演じる側の中に起きているのではなく、実は『観る側』で起きているのです」。
演者がどんなに伝えようとしても伝わらないこともある。観る側の察する力も大切で、「観る上手」になることも大切、と高階さんは言います。
さらに、4人で電車内で急ブレーキがかかった時や、無重力状態の時のパフォーマンスで場を盛り上げます。
続いて司田さんがマイクを取り、
「演劇とは大きなありもしない『嘘』をつくことでもあります。だからとても自由。だけど、特別なものではなくて、例えば台詞も日常しゃべることの延長から作られます。今日はそんな演劇が生まれる瞬間を味わってほしい」と話され、4チームに編成した全体を講堂と体育館に分けてワークショップのスタートです。
体育館では高階さんのチームが、一本の線の上を歩く動作から、しだいに高さが増していき、最後には高度100メートルの綱渡りをする、という想定で動作をグループごとに考えて演じるというパフォーマンスに挑みました。
体育館のもう半面では司田さんが、グループごとに大きなガラスの板を運んで、それを仲間に受け渡すという想定で内容を考えて、実際に演じてみるという活動を行いました。司田さんは、演技のたびに改善点を示して、取り組みを促して下さいます。
講堂チームは、井上さん・渡辺さんによる「見えない縄跳び」のパフォーマンスです。最初は全体で「見えない」大縄飛びを行い、後半はグループに分かれて、縄がないからこそできるパフォーマンスをそれぞれが考えて演じるということをやりました。
ナビゲーター1人につき50人の生徒というのは、かなり難しいものがありましたが、「自由に演じる」ことに興を覚えたのか、各会場盛り上がっていました。
その後、再び全体が体育舘に集まって、何人かの生徒が自分たちのパフォーマンスについて説明し、フィードバックを行って終了となりました。
いくつか生徒の感想を紹介します。
◆今まで、縄なしの大縄なんて何が面白いのだろうと思っていた。だけど、今回初めてエアーでやってみたら、想像していた以上に楽しかった。他の班の発想が豊かでよかったと思う。みんなのを見て、自分たちの班も、恥ずかしさが出ていた。これは、何回もやることでなくなると思う。今回のことを通して、みてるだけではなく、実際にやってみないと、どうかはわからないことがわかった。(中1S君)
◆ワークショップでやる内容が決めにくく、意見が出なかった。面白しさやクリエイティブ(=自由)な発想が必要だと知り、今まではクリエイティブな発想ができていなかった。 これから少しでも発想できるようになりたい。例えば舞台の演出とかを考えたりすることなど。この経験を活かして、日学祭をクラスで頑張りたい。(中1S君)
◆たった一つの言葉で表せる動作なのに色々なことができるんだなと感じた。今まで演劇はやる側が何かをして見る側が拍手するだけみたいに思ってたけど、見る側とやる側がどちらも共通の空間見えたりしたりすることから何だか仲間みたいに思えてきた。(中2A君)
◆表現するのは難しいと思った。チームで活動するともっと盛り上がると思った。見ている人がもっと見やすかったり聞きやすかったりしたらもっと面白くなると思った。見ている人の見方や聞き方で感じとることは無限に変わると思った。(中2BS君)
◆チームと団結するには意見をしっかり共有した方がいいと思った 演劇の種は、演者と観客が、聴くことがと見ることにより、共通の空間を作り上げることにより創作されていくものと感銘を受けた。(中3T君)
◆何もない状態で止まる動きだったりいきなり動いたりいかに声だったり等いかに普段やっている動きの大切さが分かった。とくに人にわからせるための表現をするのは難しいので声で代用した部分もあった。でも考えて皆で表現できたことが楽しかった。(中3F君)
私が考えさせられたのは、高階さんがおっしゃっていた言葉でした。ある生徒の「演劇をやる上で大切なことは何ですか」という質問に対して、
「演劇は話したり表現したりする方に目が行きがちだけど、実は大切なのは『聴くこと』と『観ること』です」
と高階さんは答えます。
「創発学」では発信したり自己表現したりすることを重要視しています。しかしその前に、話しをちゃんと聴くこと、物事をちゃんと観ることができているか、ともすれば、自己表現ばかりが取り上げられるけれど、周囲や他者をしっかりと見聞きすることができているか、そして、その見聞きしたことに対してリアクションできる身体を私たちは持っているか。つまり、そのリアクションこそが台詞であり演技の源であるということだと私は理解しました。とても考えさせられる言葉でした。
さて、この日まかれた演劇の「タネ」が日学祭や生徒諸君の日常においても、芽を出したり花を咲かせたりすると、とてもうれしいと思っています。
高階さん、司田さん、井上さん、渡辺さん、大変ありがとうございました。