少し前の話になりますが、9月に行われた陸上競技大会の際に、久しぶりにカマキリを見つけました。お腹が大きい雌のカマキリでしたが、その後、大会に参加していた10歳くらいの男の子に捕まってしまいました。私は、「逃がしてあげたら?」と男の子に言ってみたのですが、「いやだ!」とガンとして私の言うことを聞きませんでした。男の子は、もうすぐ自分が走る出番なのに、捕まえたカマキリに夢中でした。
あらためて自分が小さかった頃を思い返すと、男の子の気持ちがわからないわけでもありません。私は、東京の世田谷で生まれましたが、庭には土があり、たくさんの木々が植わり、様々な生きものに囲まれて育ちました。多感な小学生時代は、父の転勤のために静岡、鹿児島の地方都市で過ごしました。当然ながら生きもの好きが加速し、下校途中に寄り道をしては様々な生きものを捕まえていました。その多くを家に持ち帰ったので、よく母に呆れられたものです。
ある日、ちょうど今頃のような晩秋でしたが、カマキリの卵塊を見つけて家に持ち帰りました。いつものように「そんなものを持ち帰ってきてどうするの?」と、母に叱られたのですが、私は、「暖かくなったら、たくさんのカマキリの子どもが出てくるよ」と母に言って、タンスの上にそれを置き、眺めていました。その翌年の春、その瞬間は、私が学校に行っている間に起きたのです。私の母は、生きものが好きな方ですが、たくさんの子どものカマキリが卵塊から孵化する様子を目の当たりにして、「あんなにウジャウジャ出てきて…。もう、本当に凄かったわよ。さすがにゾワゾワしたわ」とウンザリした様子でした。孵化した小さなカマキリたちは、あっという間にタンスを降りて、部屋を歩き出したそうです。母は、何とかしようと尽くしてくれたようですが、さわるとつぶれてしまうくらいに小さなカマキリが、床をどんどん埋め尽くしていくので、結局、「ほうきで全部、掃き出しちゃったわよ」とのことでした。外を見ると、母のほうきの圧力に屈したカマキリの子どもの亡がらがたくさん転がっていました。
私は、「かわいそうなことをしちゃったな」という思いと「いつかカマキリの子どもが孵化する様子をこの目で見たいな」という複雑な思いにかられたことを今でも覚えています。現在は、インターネットで検索をすれば、様々な生きものの動画を簡単に見ることができます。私は、いまだに幼い頃の思いを果たせていないので、何とかカマキリの子どもが孵化する瞬間を生で見たいものです。
話は変わりますが、最近、カマキリと言えば、俳優の香川照之さんがカマキリ先生に扮して熱く授業をする「昆虫すごいぜ」というNHKの番組が話題です。私は、これまで欠かさずに視聴しています。私も授業中に、昆虫に関する話を生徒たちに話すことがたまにあるのですが、近ごろは虫嫌いの生徒もいて、話をしても耳をふさぐ姿が見受けられます。生きものの素晴らしさを伝えることは、難しいなあと思っていた時に、衝撃的だったのが、香川さんが、圧倒的な経験と知識を元に、昆虫という生きものの素晴らしさを超絶に熱く語る姿でした。さすがに着ぐるみまでは着ませんが、参考にしたいものです。