高校2年生では創発学の一環として、「マイ・プロジェクト」に取り組んでいます。モジュール講習の中での活動になり、参加生徒は13名。それぞれが、自分の興味あることや関心(WILL)を元に、社会や周りの人が必要としていること(NEED)との一致点を考え、さらに自分ができること(CAN)から自分の「プロジェクト」を考え、アクション、実行していくという取り組みです。
【現在、生徒が考えているプロジェクトの例】
・災害時の連絡手段として公衆電話の普及
・土砂災害に強い社会を作るための活動
・パラスポーツを社会に定着させる活動
・コロナで当たり前でなくなったことを人々に伝える
・空き家問題を改善する活動
・障害者が自由に暮らせる社会をめざす活動
・シンギュラリティーを社会の中で推進する活動
探究活動には他者の存在が必要不可欠です。しかし13名という少人数で取り組んでいると、多様な観点や価値観に触れる機会が限られてしまいます。そこで、同じような課題をもつ学校の生徒とオンラインを活用してマイ・プロジェクトについて情報交換をする機会を設けました。
交流していただくのは三重県の暁高等学校(学校法人暁学園)の生徒7名(内訳は女子6名男子1名)です。あわせて20名の生徒が5つのグループに分けて、お互いのプロジェクトについて簡単にプレゼンし、感想などを共有します。全体の司会は暁学園の先生がやって下さいました。
まずはアイスブレイク。「東京といえば・・・」「三重といえば・・・」と、それぞれが考えるイメージを挙げて共有し、お互いの緊張をほぐします。
考えてみれば、オンラインシステムを使うと、こうして簡単になかなか縁のなかった地域の高校生と話ができるのですから、これは「コロナの功名」なのかもしれません。
私は正直「うちの生徒たちはちゃんと話ができるのだろうか」と心配でした。「男子校」という同質性の高い集団の中で毎日を完結させている生徒たち(簡単にいえば「内輪」の世界で事が足りている生徒たち)が、はたして他校の、それも女子生徒と「内輪」であることに頼らずに話しができるのか、はなはだ気を揉んでいました。しかも、各グループのファシリテーター(発言をうながし、会を「回す」人)は「誕生日が今日に一番近い人」が務めるということで、なんと全グループうちの生徒たちが務めることになったようです。
しかし、そんな心配はアイスブレイクですぐに消えました。見ていると多くが、相手の発言を促そう、色々なことを口に出して場を盛り上げようとしていて、これには驚くとともに感心しました。
内容は各自のプロジェクトに移ります。
自分たちのプロジェクトについて話すのみならず、相手のプロジェクトについても感想や意見を述べます。暁学園の、海洋汚染に関するプロジェクトを考えている生徒に対して、自分が海岸清掃に参加した時の感想を述べて相手に賛同の気持ちを示したり、学校でジェンダーフリー制服の導入を目指すプロジェクトを考えている生徒には、自分の興味関心や体験などを話して共感を示したりと、相手にフィードバックしてもらいたいという気持ちを感じました。
会は約1時間で終了。お互いのプレゼンを終えたグループはいくつか雑談に花が咲いていました。
最後に全体のまとめとして数名が感想を共有。暁学園の女子生徒が、
「普通に楽しかった」
と言っていたのが印象的でした。
つまり、内容はいたって「真面目」なのだけど、こういう交流をしてみて、それが「楽しかった」ことへの素直な驚きがあったということでしょう。
終了後、うちの生徒たちに「今回の交流会をやってみて、プロジェクトを進める気持ちが上がった人は?」と投げかけたところ、全員が手を挙げていました。自分と同じように取り組んでいる生徒と実際に話してみることで、モチベーション向上にもつながったようです。
今回のように、自分と同じ世代だけど異なる価値観や考えを持って行動している他者、そういう存在と実際に話してみることが大切だと痛感します。また、全く異なる世代の自分が興味のある分野で行動している人と話してみることも大切です。
今回のプロジェクトで「シンギュラリティー」について取り組んでいる生徒は、AI技術について日本でトップレベルの会社に実際に連絡をしてアポイントを取り、オンラインで様々な質問を投げかけるなどしました。驚いたのは実際に手を差し出すと、きちんと握り返してくれる大人は実は沢山いるということです。彼はその道の第一人者と話すことで多くの気づきを得ていました。
その他、区の土木課に電話して話を聞く生徒、障害者施設に実際に足を運び話を聞いた生徒など。このような他者との出会いが創発にはとても大切です。
本校の生徒の気づきや感想を一部紹介します。
・自分的には日本国内でプロジェクトを進めようと考えていたが、海外の話しなどが出て凄い視野が広がった。海外の障がいを持つ人たちの事も調べて行こうと思います。
・ほかの人に自分の進行状況を話すことで自分のプロジェクトの欠点やこれからの課題などがわかりました。そして、ほかの人に自分の考えを人に話すというのはどれほど難しいか改めて実感しました。
・暁学園の生徒のプロジェクトは、子供などに勉強を教えたりするものだった。 かなり難しい内容のプロジェクトに取り組んでいるなと思った。子供相手に教えるから、アクションが特に大事になるなと思った。 相手のプロジェクトを聞いて自分ももっとアクションを大事にしなければならないと思った。
・最初は緊張しましたが、これから生きていく中で初めての人と喋る事は沢山あると思うのでいい経験になったと思いました。自分たちのプロジェクトは、なぜそうするのか??という根拠の部分が少し弱かったのでしっかりと根拠を考えたいと思った。
・暁学園の生徒のプロジェクトは、壊れてしまった水琴窟を直して地域活性したいというのと、ダイビングをしているときに海にゴミがたくさん落ちているのを見てきれいにしたいということを考えていた。二人ともいい議題だなと思った。
さて、「マイ・プロジェクト」は1月20日(木)に学内発表会を行い、それぞれのプロジェクトをプレゼンテーションする予定です。
生徒たちはこれからアクションの立案から実行が大事になります。
発表の様子をまたこの場で報告できたらと思います。
(記事:創発学担当 伊藤)