ここに一枚のハガキがある。遠征先の旅館のご主人から頂いたハガキである。
すこし昔の話にお付き合いいただきたい。
どの部活遠征でも同様だが、その遠征中盤に監督会議が開かれる。
これは監督同士お互いの練習方法や考え方、体験などを語り合い、今後の指導の糧とする、いわば指導者たちの大事な学びの場だ。
その年の監督会議はクリスマスイブと重なった。私たちが会議でいぬその晩の補食にと、私は少し奮発して生徒たちにはホールケーキを用意した。
試合の緊張が続く遠征中期に、生徒たちにもわずかな羽根伸ばしの時間が必要だろうという思いもあった。
聞いた話によるとその晩、夕食の片付けが終わった厨房に、生徒達が三々五々に集まったそうだ。そして今まさにクリスマスパーティが開かれようとしたその時、どうやらその場に旅館のご主人のお孫さん達が顔を覗かせたらしい。
生徒達は喜んで彼らを招き入れ、その三人のゲストの分もケーキを取り分け、鬼の居ぬ間の洗濯をともに大いに楽しんだ、とのことだ。
遠征が終わりに近づいたときには「お世話になった先々を、着いた時よりさらに美しく」をモットーに、生徒達による帰京前夜の大掃除が行われた。
私の手元にあるその頂いたハガキには「今までお世話させていただいた生徒さん達の中で、
一番素晴らしい生徒さん達でした。
帰られた後の部屋もみな綺麗で、先生方のご指導の賜物と一同感心しております。
孫達も本当に楽しかった様で、あのお兄ちゃん達にまた会いたいと申しております。
お正月大会に出場できますよう、
皆で応援しております。
お体を大切に、頑張って下さい。」
と、書かれてある。
試合の結果はもう覚えていない。しかし、当時の生徒達の顔と、ハガキを手にした時の小さな喜びは今でも覚えている。
思い出すたびに、またこのような生徒たちを育てたい、という強い思いを確認する。
いつも生徒達にはこう言っていた。
「人に対して、気が利く人間となれ。
他者に対する思いやりを行動で示せ」
「心は見えない、
しかし、
心遣いは見える」