今、高校3年生は受験の天王山といわれる夏を闘っています。「自分の高校時代を振り返って現高校生にメッセージを書いてください」との注文でしたので、はるか40数年前の記憶をたどって書いてみます。
私の高校は、四国愛媛県の最南端に位置する県立高校でしたので、夏の暑さも半端ないものでした。各家庭にクーラーが普及し始めたものの、経済的に常時付けておくことがはばかられる時代でしたから、県立高校の各教室にはもちろん設置されていませんでした。ゲームもSNSもなく勉強しかやることのなかった田舎の高校生は、この暑さをどう凌いで勉強するか、ということが大きな問題でした。いろいろ試してみた結果、学校の校舎が一番涼しい、ということに気づきます。鉄筋コンクリートのまだ夏の太陽に灼かれていない午前中の北側廊下は、風が通り抜けて極上の涼しさだったのです。
長い廊下に点々と机を置き、それぞれの場所を確保して勉強をしていると、蝉の大合唱が始まります。都会のアブラゼミなら「ミ――ン、ミン、ミン…」と「m」の音が聞きとれますが、誰かに話しかけられても聞こえないほどの蝉の爆音が、受験生の神経を逆なでするように降ってくるのです。たまりかねた生徒が3階の窓から蝉の止まっている樹に「ウルサーイ!」と叫んでバケツに汲んだ水をかけると、一瞬静まるのですが、しばらくすると、また鳴き始める。蝉にとっても7年間も土の中で暮らし、やっと地上に出て蝉の生を謳歌すべく懸命に鳴いているのです。ちょっとやそっとの「水害」には負けていられないのでしょう。私たちは、そんな夏をいわば闘っていたわけです。
今となっては、ほのぼのとした懐かしい思い出ですが、あの時代に帰るのだけは、もうこりごりと思ってしまうのは、大学受験がとても厳しいものだったからです。受験者数は今とは比べものにならないほど多く、私の受験校は、募集人員の33倍の受験生が殺到し、駅も大学周辺も受験生であふれかえっていました。
確かに、現高校3年生も2020年の入試改革のあおりを受け、「後のない受験」を強いられています。厳しい受験になることは間違いありません。しかし、受験勉強の基本は、倍率とか偏差値ではなく、志望校の問題と真正面から向き合って自分の力を客観的に判定し、足りないところを補っていくということです。常に自分と対話しながら、自分を客観的に診断し判定することができれば、今何をやらなければならないかが見えてくる。そして「この大学に行きたい。間違いはない。」という志望校に対する強い確信があれば、必ず乗り越えられる「山」だということです。誰もが抱える受験の不安を打ち消すために、1日1日を「これ以上出来ない」というところまで自分を攻めて勉強して欲しいと思います。もちろん、「暑さ」と「蝉の騒音」とは無縁のしあわせな受験生だということも忘れずに。