この本は中高生向けの小説で、全国読書感想文コンクール高等学校の部の課題図書になっています。刺繍の得意な高校1年の松岡清澄くんと、彼の家族たちが章ごとに語りべとなり、清澄くんがお姉さんのウエディングドレスを作ろうとする話を中心に進んでいきます。
登場人物のほとんどは「〇〇は××」という定型から外れています。例えば清澄くんは「手芸は女性がするもの」というイメージとは違って、縫いものが好きな男子です。
清澄くん目線での話は将来この本が本校の読書テストの課題図書になる可能性を考えて割愛するとして(笑)、彼を支える脇役を推したいと思います。
この本で一人だけ松岡家の家族ではない視点から描かれている章があります。清澄くんの離婚した父親・全さんが働いている縫製工場の経営者、黒田さんです。彼は全さんの服飾専門学校からの友人で、ある理由から生活力のない全さんを雇って世話をしています。
それは、黒田さんがかつて専門学校で全さんの才能に圧倒された経験があって、現在はくすぶっている状態の全さんが再び才能を発揮する瞬間を見たいというものです。
才能に恵まれた人は苦労をしないで能力を手に入れているので、天才が努力するようなプロの世界などの先の段階にためらいなく飛び込んでいける人もいれば自分なりの限界を決めて進もうとしない人もいます。その限界は時として才能に圧倒された側からすれば予想よりずっと手前に設定されていて、どうして先に進まないのかともどかしく思うのです。私も同級生の才能に圧倒されたことも、その後の進路をもどかしく思ったことも経験したことがあるので、黒田さんの秘めた思いに共感しました。
黒田さんはどんな定型から外れている人物なのでしょうか?清澄くんや全さんとのやりとりでなんとなく分かりますが将来この本が(以下略)。
この作品はぜひドラマ化してほしいと思いました。清澄くんのお姉さんのドレスの完成形など実写で見たいシーンがいろいろあります。たまに中高生向け小説もドラマ化されているので、私はひそかに願っています。
『水を縫う』は図書室にあります。ぜひ読んでみてください。