暑さの厳しかった今年の夏が懐かしいほど急に涼しくなり、雨の多い秋ですね。
日本学園中学校のキャリア教育のひとつ、秋の行事に「あつき恵み教室」という様々な職業の方に講話をして頂く機会があります。以前ある方が、「好きなことを仕事にできるといいね、もちろん生活はしなくてはいけないんだけど。その“好きなこと”って僕は、“休憩したいと感じないこと”だと思うんだ。みんなは何をしている時、あっという間に時間がたつかな?」というお話をして下さったことがあり、生徒たちだけでなく私の心にも響きました。
私は古典文学そのものはもちろん、それにまつわるあらゆることが好きで飽き足らず、国語の教員になったわけですから、授業があっという間に終わってしまうのは当然ですね。でも、生徒にとってもそんな充実した時間になってほしい、と常々思っています。チャイムが鳴ったとき「え?もう終わり?はやーいっ」なんて生徒たちが言うときは、いい時間だったな、と。逆に、終わり近くになってチラチラ生徒の視線が斜め上の壁掛け時計に移動していたりしたときは・・・、猛省ですよね。
中学2年生の国語の授業では今『百人一首』を学んでいますが、和歌の主題として『恋』の次に多いのが『四季』を詠んだ歌、中でも16首と他を圧倒しているのが『秋』です。
トップバッター天智天皇の
“秋の田の仮穂の庵の苫をあらみわが衣手は露に濡れつつ”
―稲実る秋の田に仮に作った簡素な小屋の屋根に葺いた草の編み目が粗いので、そこで眠る私の袖は夜露で濡れることだー
に始まって、本当に多くの心に染み入る和歌の数々。
四季のある日本、その盛りも移ろいも本当に素晴らしく、環境問題から目を背けずに100年先もその先もこの美しさを守っていかなければならないと感じます。
日本学園では、中学生から「古典」をたくさん学びます。
国語科の取り組みのひとつとして、「現代文」と同じ時間だけ、「古文」や「漢文」「漢字学」にも力を入れています。
中学1年生では、日本最古の物語『竹取物語』を1年間かけて読み解き、2年生では『枕草子』や『平家物語』を味わった今、カルタでお馴染みの『百人一首』を“作品”として向き合います。3年生では様々な説話に触れ、俳句に触れ、そして漢文。1年生の最初にじっくり学んだ「漢字学」をさらに深めることで、中国を知り、歴史を知り、日本を知ります。
学校を卒業し、時が流れて。それぞれの仕事につき、それぞれの生活をして。授業で習ったほとんどのことを忘れた頃。
それでも“残っているもの”それが真の教育だ、という言葉もいつも私の心の中にあります。額装して心に飾ってある言葉です。
中学校・高校生活など、長い人生のほんの一瞬です。そのあとを生き抜く方が遙かに長いですね。ここをいずれ巣立つとき、その両手にひとつでも多く“豊かなもの”を抱えて歩いていけるよう、生徒たち一人ひとりと向き合い、古典文学を教えている毎日です。